「自分は食べません」 おすすめ度:
投稿日:2007-11-14
松永和紀氏の食品報道に関する一連の著作や中西準子氏らのリスク
評価の著作を読んで、BSE問題については「全頭検査なんて無駄なん
じゃねぇの?そうそうヘビーなリスクでもねぇし、コストがでけぇよ」
とか思ってました。
あら、でも、BSEに関しては、そうした冷静なリスク評価ができるほど
には、いろんなことが解明されているわけじゃなかったんですね。
うひー。
知りませんでした。さー、どーなんでしょ??
さて、そうした具体的な研究のアウトプットの基礎となる理屈はどうか
といえば、還元論ではなく物的に構造化された相互関係が問題にされて
いて、いってみれば、形相的な同一性に探求の照準が絞られていまして、
自分の立場としては非常に近しいものを感じつつ、実験の設計や実験そ
のものの技術的な可能性評価、および実験結果の評価に、どう適用して
いくのか確実ではない部分が多いようにも思われ、激しく保留です。
一方、BSEの病理学的論争の背景に隠れて、その英国における蔓延には、
非常に杜撰でお粗末な社会的プロセスがあったわけで、そう言われてみれ
ば、そりゃリスク評価以前の話しだよね、とは思いました。
昨今の食品偽装報道を見ても、どーも、冷静な科学的根拠に基づいたリス
ク評価よりも、もっと当たり前の社会的プロセスに不備があるっぽいので、
やっぱり牛はまだ危険だろ、と思うことにします。
「動的平衡論からみた狂牛病の意味とは」 おすすめ度:
投稿日:2007-11-12
「生物と無生物のあいだ」がおもしろかったので、
福岡氏の他の著書を、と思って手に取って見た。
本書は狂牛病問題についての論考で、論点はおおきく以下の3点。
・狂牛病蔓延の経緯と動的平衡論からみた狂牛病の意味
・病原体とされるプリオン仮説への疑義
・全頭検査緩和策への警鐘
動的平衡論からみると、狂牛病は「環境からの報復」であるという。
すなわち、
・環境と生命は「分子の流れ」によって直接つながっている。
・いわば生命は分子レベルで見れば「実体」というよりも「流れの中の淀み」である。
・草食動物の牛に、羊や牛の死体から作った飼料を与えることは、
この分子の流れに対する人為的な介入である。
・その結果「流れ」のあり方が変化し、それが狂牛病という形で露出した。
・分子の流れへの介入によって得た効率は負のエントロピーであり、
環境のどこかでそれ以上のエネルギーが失われている。
・狂牛病はその意味で負のエントロピーの代償であるともいえる。
ちょっと聞くと宗教がかっているようにもとれるが、
本書を読めば解釈としては、十分説得力がある。
環境と分子の流れを人為的に変えてしまう、という意味で、
臓器移植にも著者は疑義を唱える。なかなか興味深い観点である。
全頭検査が緩和され、アメリカ牛は2007年から輸入再開されたが、
福岡氏の主張はいまも生きている。
単に食品として安全か、というだけではなくて、
人間には何が許されていて、何が許されないのか、という意味でも
考えさせられる一冊であった。
「生きているとはどういうことか、人間とは何か」 おすすめ度:
投稿日:2006-12-27
「もう牛を食べても安心か」という問いに対しては、この本は、「大丈夫かどうかわからない、つまり安心ではない」と答えているだけですが、その問に対して答える過程で、「生きているとはどういうことか」「人間とは何か」という深淵な問いに答えてしまっている驚異の本です。福岡先生は、「生きているとはどういうことか」という問いには、「タンパク質の動的平衡状態そのものが"生きている"ということと同義であるp.69」と回答し、「人間とは何か」という問いに対しては、「分子のレベル、原紙のレベルでは、私たちの身体は数時間のうちに入れ換わっており、「実体」と呼べるものは何も無い。そこにあるのは流れだけなのである。P.56」「記憶とは、一言で言えば、ある特別な体験に際して、脳の神経細胞ネットワークの中を駆けめぐった電気信号の流路のパターンが保持されたものだということだ。p.140」と答え、人間とは「分子・原子と電気信号の流れ」なのだと説明されています。福岡先生は、その「流れ」を壊すとして、遺伝子組み換え、臓器移植を批判しています。これだけ科学的かつ根本的な「遺伝子組み換え」に対する反論は拝見したことがありません。遺伝子組み換え反対運動家は研究者を「悪魔」と罵るのではなく、こういう本を読んで冷静に科学的に説得力を持った意見を言って欲しいです。また、これだけ体系だった無神論的生命論も希だと思います。内田樹先生の「私家版・ユダヤ文化論」の注で引用文献とされていたので読みましたが、思わぬ衝撃本に巡り会ってしまいました。キリスト教徒で遺伝仕組み換え賛成の私としては、人に勧めるのは気が進みませんが、やはり多くの人に読んでもらいたい本です。
「ためになる。しかし、保留。」 おすすめ度:
投稿日:2006-10-20
狂牛病だけの話ではないところが、評価の分かれ目だ。
著者の言う「動的平衡論」は、俗耳には入りにくい生命観であり、これに触れておくことは、世界観を広げることになろう。要は、「固定的な実体は、ない」ということを、化学の言葉で説明している。
なお、「動的平衡論」が端的に知られるのが、「記憶は信号の流路パターンである」(p140〜144)という章である。
しかし、下の「書いてあるからといって事実とは限らない」というレビューを読み、「動的平衡論」の科学的価値については、保留しておくのがよさそうだ。
「もう一度認識を新たに」 おすすめ度:
投稿日:2006-02-05
本書にあるように、現段階ではまだBSEが本当に異常型プリオンタンパク質によるものなのか疑問が残る点もある。それ以上に重要なのが、著者が述べているように、本来行政や政治から独立して科学的判断を示さなければならない食品安全委員会がアメリカ産牛肉の輸入再開の露払い的役割を担っていることだ。我々にはもっとこういった情報が大きく報じられて良いはずだ。また、これまでアミノ酸レベルで消化吸収が行われると思っていたのが、実は原子・分子レベルまで分解されて消化吸収が行われているということが大きな驚きだった。しかも、それはシェーンハイマーによって1930年代に明らかになっていたというのだ。
本書は様々な意味で現代の食のあり方や、政府の対応といったことに疑問を投げかけている。多くの層の人に読んでいただきたい作品である。